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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)273号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1  請求の原因四、1の主張について

(一)  相違点1について

成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例の明細書の項の発明の詳細な説明には、「無負荷ボールと負荷ボールを案内する保持器は略中空筒体にして、前記外筒内壁に形成した無負荷ボール案内溝2と負荷ボール案内溝3に一致するように厚肉部6と薄肉部7を形成すると共に該厚肉部6に複数の無負荷ボール溝8・8を形成し、該厚肉部6と薄肉部7との両境界部の負荷ボール溝3にはそれぞれ負荷ボールが脱落しない程度の即ちボール径寸法よりもやゝ幅の狭い長孔9を貫通せしめて形成し、」(第二頁上左欄第六行ないし第一四行。なお、右記載のうち「負荷ボール溝」に「3」の符号が付されているが、図面上では、「負荷ボール案内溝3」とは別に、負荷ボール溝を指示する「3」の符号はない。)、「前記外筒1の無負荷ボール案内溝2と負荷ボール案内溝3と一致するように嵌挿した保持器の隔壁を介して複数個形成した無負荷ボール溝と負荷ボール溝間に多数のボール11・11・・・を充填すると共に外筒1の両端にスナツプリングを嵌合せしめて保持器を固定して往復自在のベアリングを構成する。」(同頁上左欄第一八行ないし上右欄第四行)、「外筒1と保持器間に組込まれたボールの内負荷ボールによつて左右二ケ所に凹部が形成される。次に、前記負荷ボール溝の二列のボール間の台形状の凹部に一致する突出部12・13および取付け用突出部14を形成した軌道軸15を取付けボルト16をもつて一二〇度のV字状溝を形成した取付け台17に螺着せしめ、この螺着された軌道軸15に前記ベアリングを嵌め込む。」(同頁上右欄第五行ないし第一四行)と記載されていることが認められる(別紙図面(二)参照)。

右各記載を総合すると、引用例記載のものにおいて、外筒1と保持器間に組み込まれ、保持器の負荷ボール溝に充填されたボール11・11・・・は、保持器によつて、外筒1の内壁両側に形成された負荷ボール案内溝3、3の上下の突出部に接するように位置して、該突出部に係止され、その結果、保持器も右負荷ボールを介して外筒1内に確実に保持されるものであると認められる。このことは、ボール11・11・・・が転動中であつても、転動を抑制されることなく、働く作用であるとみることができる。

右認定事実によれば、引用例記載のものは、本願考案におけるリテーナ押え板に相当するものを備えていないからといつて、原告主張のような支障が生じ、これにより、ボールの転動に円滑性を欠いたり、ベアリングの組立て、軌道台の交換、ボールの嵌め込み交換等の作業に不都合を来すことはないものと認められる。

そして、仮に、引用例記載のものにおいて、保持器が著しくがたついて原告主張のような不都合を来すようであるならば、保持器としての役割を果たすことができず、ひいてはベアリングの機能が損なわれるのであるから、そのような場合には、本願考案のようにリテーナ押え板を設けてがたつきを防止することは、ベアリング設計の技術常識に立脚して当業者がきわめて容易になし得る程度のことであるというべきである。

したがつて、右押え板有無の差異は格別のものではなく、押え板の具備は当業者が必要に応じきわめて容易になし得る程度のことであるとした審決の判断に誤りはなく、原告の請求の原因四、1、(一)の主張は理由がない。

(二)  相違点2について

本願考案におけるベアリングは角形の剛性の肉厚一体構造に形成するものであるのに対し、引用例記載のものにおけるベアリングは円筒状体のものであつて、滑動部材に所望数取り付け使用するものである。

ところで、成立に争いのない乙第一号証(昭和四九年三月二五日日本ベアリング工業会発行の「ベアリング」第一七巻第三号第二一頁ないし第二七頁)によれば、転がり軸受の初期のものは、軸と、その軸が嵌合する孔を有する部材という滑動部材のそれぞれに、直接転動体の転送面を形成する構造のもの、すなわち、軸の外周面とその軸が嵌合する穴を有する部材の孔の内周面とに直接転動体の転送面を形成する構造のものであつたこと(同号証の第二一頁本文第二行ないし第一二行、第二五頁本文第五行ないし第七行、図15、図30参照)、しかし、転動体や軌道面の早急な損耗が問題となり、これを切り抜けるため軸受を調整をすることが考えられ、軌道輪を軸方向から押し込む構造が提案されたこと、この構造では、「ハウジングの内面自身を転走面としたが、このようにするとハウジング全体を焼入れてしまうか、またはこれをしないで軌道面を軟かいままにしておくかのどちらかを採らねばならないという困難に出会つた。しかし後になつて、これについては独立した軌道輪を取付けるようになつた。」(第二五頁本文第二四行ないし第二七頁第六行)こと、すなわち、ベアリングの転動面を二物体に直接形成することによつて生ずる問題点(摩耗性)が認識され、それを解決するために、その後は、軸と、その軸が嵌合する孔を有する部材との間に、外輪と内輪との間に転動体を介在させたもの(軌道輪)を嵌装する構造のものに発展してきたものであることが認められる。

右認定事実によれば、転動体案内において滑動部材自体に転動体転送面を形成することが技術的に原形であると認められ、これと同旨の審決の認定に誤りはない。

したがつて、右認定を前提として、引用例記載のものにおける円筒状体(すなわち、滑動部材にセツトして用いるベアリング)の代わりに肉厚ブロツク状体のもの(引用例記載のものの滑動部材に相当するもの)自体をベアリングとして用い本願考案のように構成することは、当業者がきわめて容易に考えられる程度のことであるとした審決の判断に誤りはなく、原告の請求の原因四、1、(二)の主張は理由がないものというべきである。

(三)  相違点3について

転がり軸受において、転動体の接触部分とそれを支持する部分とが一体であることが技術的に原形であることを認め得る適確な証拠はないから、審決が、転動体案内において、直接転がり接触する部分とそれを支持する部分とが一体であるということが技術的に原形であるとした点は誤りといわざるを得ない。

しかしながら、成立に争いのない乙第八号証(昭和四五年特許出願公告第三一二〇二号公報)、第九号証(昭和四一年実用新案出願公告第九二四八号公報)によれば、工作機械のベツド(床台)などと移送盤やテーブルなどとの間での相対運動を支承・案内する場合、ベツド本体に支承・案内面が形成されているもの(乙第九号証のもの)と別体の支承・案内面を有する部材をベツド本体に取り付けるもの(乙第八号証のもの)、すなわち、ベツド本体と支承・案内面を有する部材とが一体のもの、別体のもの、いずれの形式のものも、本件出願当時既によく知られていたものであることが認められる。

以上の事実関係によれば、審決が引用例記載のものにおける軌道軸と取付台とを一体のものにして本願考案における軌導台のように構成することは、当業者が必要に応じきわめて容易に考えられる程度のことであるとした判断に誤りはなく、審決の前記認定の誤りは右判断の結論の正当性に影響を及ぼすものではないから、原告の請求の原因四、1、(三)の主張は理由がない。

2  同2の主張について

成立に争いのない甲第四号証(昭和五九年五月二三日付手続補正書)によれば、本願考案は、請求の原因四、2、(一)ないし(四)記載の作用効果を奏するものであることが認められる。

ところで、請求の原因四、2、(一)、(三)、(四)記載の作用効果は、単に、ベアリングを角形の剛性の肉厚一体構造のものとし、軌道台も一体構造に形成したことによりもたらされるものであり、右作用効果は右構成を採用することにより当然予測し得る程度のものである。そして、本願考案のような右構成のもの、引用例記載のもののようにベアリングを円筒状体のものとして滑動部材に取り付け、軌道台も取付台と軌道軸とから構成したものとは、それぞれが利点及び欠点を有していることは技術常識に属する事項であるといつてよく、引用例記載のものが本願考案の奏する前記作用効果を奏しないからといつて、そのことのゆえに直ちに、本願考案は引用例記載のものに比して、進歩性を根拠づける格別の作用効果を奏するものであるとすることはできない。

次に、引用例記載のものは、ボール転送面の中心角が二四〇度であるから、軌道台を引き抜いても、保持器、ひいてはボールが脱落しないことは技術的に自明のことと認められるが(保持器が脱落しないことについては、原告も認めて争わないところである。)、前記1、(一)において説示したとおり、保持器の役割を果たさせるために本願考案のように押え板を設けることは、ベアリング設計の技術常識に立脚して当業者が容易になし得ることであり、請求の原因四、2、(二)記載の作用効果は右措置を採ることによつて当然もたらされるものにすぎない。

以上のとおりであるから、本願考案は格別の作用効果を奏するものであることを前提とし、審決はこれを看過した旨の原告の請求の原因四、2の主張は理由がないものというべきである。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

軸心方向に切欠部を形成し、この切欠部にボールの転送面を有し、且つ、リテーナによつて保持されたボールを前記切欠部のボール転送面に当接し、更に、その内側に直杆状の軌導台を嵌め込んだ軌導台付ベアリング装置に於て、前記切欠部を有するベアリングは、角形の剛性の肉厚一体構造に形成すると共に、前記軌導台も一体構造に形成し、更に、前記リテーナはベアリングの両下側面に取付けたリテーナ押え板によつて保持するように形成したことを特徴とする軌導台付ベアリング。

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

<省略>

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